体(Field)
体の公理
集合\(\mathcal{F}\)に対して二つの演算加法(addition)と乗法(multiplication)を定義する.集合\(\mathcal{F}\)とこれらの演算が体を構成するとは以下の \( \eqref{eq:1.1} \) の公理を満たすことである.
\begin{align} & {}^\forall \alpha,\beta \in \mathcal{F}, \ \alpha+\beta \in \mathcal{F}, \\ & {}^\forall \alpha,\beta \in \mathcal{F}, \ \beta+\alpha=\alpha+\beta, \\ & {}^\forall \alpha,\beta,\gamma \in \mathcal{F}, \ (\alpha+\beta)+\gamma=\alpha+(\beta+\gamma), \\ &{}^{\exists!} 0 , \ {}^\forall \alpha \in \mathcal{F},\ \alpha+0=\alpha, \\ &{}^\forall \alpha, \ {}^{\exists!}{-\alpha} , \ \alpha -\, \alpha \,\colon= \alpha + ({-\alpha}) = 0, \\ &{}^\forall \alpha, \ \beta \in \mathcal{F}, \ \alpha\beta \in \mathcal{F}, \\ &{}^\forall \alpha,\beta \in \mathcal{F}, \ \alpha\beta = \beta\alpha, \\ &{}^\forall \alpha,\beta,\gamma \in \mathcal{F}, \ (\alpha\beta)\gamma=\alpha(\beta\gamma), \\ &{}^{\exists!} 1 , \ {}^\forall \alpha \in \mathcal{F}, \ \alpha 1=\alpha, \\ &{}^\forall \alpha \neq 0, \ {}^{\exists!}{\alpha^{-1}} , \ \alpha{\alpha^{-1}}=1, \\ &{}^\forall \alpha,\beta,\gamma \in \mathcal{F}, \ \alpha(\beta+\gamma)=(\alpha\beta)+(\alpha\gamma). \tag{1.1} \label{eq:1.1} \end{align}
体の例
体の例を以下に示す.
- 実数の集合 \( \mathbb{R} \) 順序付が可能で完全(completeness)
- 複素数の集合 \( \mathbb{C} \) 順序付けはできないが完全
- 有理数の集合 \( \mathbb{Q} \) 順序付け可能で不完全(incomplete)
練習問題
\( \mathbb{R}^2 \) を実数の順序対 \((\alpha,\beta)\) のすべての集合とする.また,この集合において加算と乗算を以下のように定義する.
\begin{align} & (\alpha, \beta) + (\gamma,\delta) = (\alpha+\gamma,\beta+\delta) \\ & (\alpha,\beta)(\gamma,\delta) = (\alpha\gamma-\beta\delta,\alpha\delta+\beta\gamma) \end{align}
\( \mathbb{R}^2 \) と上記の演算の組合せは体を構成することを証明せよ.
次の集合が(加算と乗算について)体を構成するかどうか判定せよ.
- \( \{m+n\sqrt{5}\,|\,m,n \in \mathbb{Z} (\mbox{整数体})\} \)
- \( \{a+b\sqrt[3]{5}+c\sqrt[3]{25}\,|\,a,b,c \in \mathbb{Q} \} \)
- \( \{a+bi\,|\,a,b \in \mathbb{Q},\,i\,\mbox{: 虚数単位} \} \)
有限次元のベクトル空間(Finite-Dimensional Vector Spaces)
ベクトル空間は,特定の体\(\mathcal{F}\)を前提としており,定義で使用される数値またはスカラーは,\( \mathcal{F} \)の要素である.体 \( \mathcal{F} \) 上のベクトル空間 \( \mathcal{V} \) とは,ベクトルと呼ばれる要素の集合とベクトルの加算とベクトルのスカラー乗法によって構成される.
ベクトル空間の公理
集合 \( \mathcal{V} \)と加算とスカラー乗法の2つの演算の組合せがベクトル空間を構成するとはベクトル空間 \( \mathcal{V} \)とベクトルの加算とベクトルのスカラー乗法の組合せにおいて以下の \( \eqref{eq:1.2} \) の公理を満たすことである.
\begin{align} & {}^\forall \mathbf{a},\mathbf{b} \in \mathcal{V}, \ \mathbf{a}+\mathbf{b} \in \mathcal{V}, \\ &{}^\forall \mathbf{a},\mathbf{b} \in \mathcal{V}, \ \mathbf{b}+\mathbf{a}=\mathbf{a}+\mathbf{b}, \\ &{}^\forall \mathbf{a},\mathbf{b},\mathbf{c} \in \mathcal{V}, \ (\mathbf{a}+\mathbf{b})+\mathbf{c}=\mathbf{a}+(\mathbf{b}+\mathbf{c}), \\ &{}^{\exists!} \mathbf{0}, \ {}^\forall \mathbf{a} \in \mathcal{V}, \ \ \mathbf{a}+\mathbf{0}=\mathbf{a}, \\ &{}^\forall \mathbf{a}, \ {}^{\exists!}{-\mathbf{a}}, \ \mathbf{a} -\, \mathbf{a} \,\colon= \mathbf{a} + ({-\mathbf{a}}) = \mathbf{0}, \\ &{}^\forall \alpha \in \mathcal{F}, \ {}^\forall \mathbf{a} \in \mathcal{V}, \ \alpha\mathbf{a} \in \mathcal{V}, \\ &{}^\forall \alpha,\beta \in \mathcal{F}, \ {}^\forall \mathbf{a} \in \mathcal{V}, \ \alpha(\beta\mathbf{a}) = (\alpha\beta)\mathbf{a}, \\ &{}^\forall \mathbf{a} \in \mathcal{V}, \ 1 \mathbf{a} = \mathbf{a}, \\ &{}^\forall \alpha \in \mathcal{F}, \ {}^\forall \mathbf{a},\mathbf{b} \in \mathcal{V}, \ \alpha(\mathbf{a}+\mathbf{b})=(\alpha \mathbf{a})+(\beta\mathbf{b}), \\ &{}^\forall \alpha,\beta \in \mathcal{F}, \ {}^\forall \mathbf{a} \in \mathcal{V}, \ (\alpha+\beta)\mathbf{a}=(\alpha \mathbf{a})+(\beta\mathbf{a}). \tag{1.2} \label{eq:1.2} \end{align}
ベクトル空間の例
複素数の集合 \( \mathbb{C}\) を考える.次の規則により,複素数をフィールド \(\mathcal{F}=\mathbb{C}\) のベクトルとして解釈できる.
\begin{align} \mathbf{a} & \,\colon= \alpha, \ \alpha \in \mathbb{C}, \\ \mathbf{a}+\mathbf{b} & \,\colon= \alpha+\beta,\\ \mathbf{0} & \,\colon= 0, \\ -\mathbf{a} & \,\colon=-\alpha, \\ \lambda\mathbf{a} & \,\colon= \lambda\alpha. \end{align}
\( C^{0}[(a,b) \subset \mathbb{R};\mathbb{R}]\) を区間 \((a,b) \subset \mathbb{R} \) にわたるすべての連続実数値関数の集合とする.次の規則により,実数体でのベクトル加算とスカラー乗法を定義することができる.
\begin{align} \mathbf{f} & \,\colon= f(x), \ x \in (a,b), \\ \mathbf{f}+\mathbf{g} & \,\colon= f(x)+g(x), \\ \lambda\mathbf{f} & \,\colon= \lambda f(x) ,\\ \mathbf{0} & \,\colon= 0, \\ -\mathbf{f} & \,\colon= -f(x). \end{align}
上記の規則により, \( C^{0}[(a,b) \subset \mathbb{R};\mathbb{R}]\) は実数のベクトル空間である(これは無限次元のベクトル空間の例である).
部分ベクトル空間(a Vector Subspace)
集合\( \mathcal{W} \)がベクトル空間\( \mathcal{V} \)の部分ベクトル空間であるとは次の条件を満たすことである.
\begin{align} & \mathcal{W} \subset \mathcal{V} \mbox{ かつ } \\ & {}^\forall \lambda,\mu \in \mathcal{F}, \ {}^\forall \mathbf{a},\mathbf{b} \in \mathcal{W}, \ \lambda\mathbf{a}+\mu\mathbf{b} \in \mathcal{W}. \tag{1.3} \label{eq:1.3} \end{align}
部分ベクトル空間の例
\( \mathcal{V} = \mathbb{R}^{N} \)とする.\( \mathcal{W} \) を \( \mathbb{R}^{N} \) の部分集合とし,\( \mathbf{w} \,\colon= (0,\alpha_2,\alpha_3,\ldots,\alpha_N) \) の形式のベクトルで構成されるようにする.
部分ベクトル空間の定義により,\( \mathcal{W} \) の2つのベクトル \( \mathbf{a},\mathbf{b} \) に対して,線形結合
\[ λ\mathbf{a}+μ\mathbf{b} = (0,\lambda\alpha_2+\mu\beta_2,\lambda\alpha_3+\mu\beta_3,\ldots,\lambda\alpha_N+\mu\beta_N). \]
を得る.上記のベクトルは明らかに \( \mathcal{W} \) に含まれる.
したがって,\( \mathcal{W} \) は部分ベクトル空間となる.
\( \mathcal{V} = \mathbb{R}^{N} \)とする.\( \mathcal{W}^{\#} \) を \( \mathbb{R}^{N} \) の部分集合とし,次の形式のベクトルで構成されるようにする.
\[ \mathbf{w^{\#}} \,\colon= (\alpha_1,\alpha_2,\ldots,\alpha_N) \ \ \mbox{with} \ \sum_{k=1}^{N}(\alpha_{k})^2 =1. \]
このときゼロベクトル \( \mathbf{0} = (0,0,\ldots,0) \) は \( \mathcal{W}^{\#} \) に属さない.したがって,\( \mathcal{W}^{\#} \) は部分ベクトル空間ではない.
ベクトルの線形和(a linear combination of vectors)
線形和(一次結合,線型和)の定義を行う.
次の式であらわされるベクトルのことを ベクトル \( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2,\ldots,\mathbf{v}_{N} \)の線形和または一次結合という.
\begin{align} \mathbf{v} \,\colon= \sum_{k=1}^{N}\alpha^{k}\mathbf{v}_{k}, \quad \alpha_{i} \in \mathcal{F} (1 \leq i \leq N) \end{align}
ベクトル空間の生成
以下の形式のベクトルで構成されるような \( \mathcal{V} \) の部分集合\( \mathcal{W} \) は,ベクトル \( \mathbf{w}_1,\ldots,\mathbf{w}_k \) によって生成(または展開)されるという.\[ \mathbf{w} \,\colon= \sum_{j=1}^{k}\alpha^{j}\mathbf{w}_{j} \] このような部分集合は,部分ベクトル空間であることが証明できる.
[証明]
\( \mathbf{a} \,\colon= \displaystyle\sum_{j=1}^{k}\alpha^{j}\mathbf{w}_{j}, \ \mathbf{b} \,\colon= \sum_{j=1}^{k}\beta^{j}\mathbf{w}_{j} , \ \lambda,\mu \in \mathcal{F} \)とおくと \begin{align} \lambda\mathbf{a}+\mu\mathbf{b} &= \lambda\sum_{j=1}^{k}\alpha^{j}\mathbf{w}_{j}+\mu\sum_{j=1}^{k}\beta^{j}\mathbf{w}_{j} \\ &=\sum_{j=1}^{k}\lambda\alpha^{j}\mathbf{w}_{j}+\sum_{j=1}^{k}\mu\beta^{j}\mathbf{w}_{j} \\ &=\sum_{j=1}^{k}(\lambda\alpha^{j}+\mu\beta^{j})\mathbf{w}_{j} \in \mathcal{W}.\end{align} また\( \ \alpha_1=\alpha_2=\cdots=\alpha_k=0 \ \mbox{とおくと} \ \mathbf{a} = \mathbf{0} \in \mathcal{W}. \)
よって,\( \mathcal{W} \) は部分ベクトル空間である.[証明終わり]
線形独立(linearly independent)と線形従属(linearly dependent)の定義
\( k \) 個のゼロでないベクトル \( \mathbf{v}_1,\ldots,\mathbf{v}_k \) と以下のベクトル方程式を考える.
\begin{align} \sum_{j=1}^{k}\mu^{j}\mathbf{v}_{j} = \mathbf{0}. \tag{1.4} \label{eq:1.4} \end{align}
上記のベクトル方程式が \( \mu^1 = \mu^2 = \cdots = \mu^{k} = 0 \) の場合だけ成り立つとき,ベクトル \( \mathbf{v}_1,\ldots,\mathbf{v}_k \) は線形独立または一次独立,その他の場合を線形従属という.
線形独立の例
次の \( N \) 個のベクトルによって与えられる \( \mathcal{V} = \mathbb{R}^{N} \) を考える.\begin{align} \mathbf{e}_1 \,\colon= (1,0,\ldots,0), \mathbf{e}_2 \,\colon= (0,1,\ldots,0),\ldots,\mathbf{e}_{N} \,\colon= (0,0,\ldots,1). \tag{1.5} \label{eq:1.5} \end{align} ベクトル方程式 \( \displaystyle\sum_{j=1}^{N}\mu^{j}\mathbf{e}_j = \mathbf{0} \) より,\( (\mu^1,\mu^2,\ldots,\mu^{N})=(0,0,\ldots,0) \) を得る.したがって,\( \mu^1=\mu^2=\cdots=\mu^{N}=0. \)
よって,これらのベクトルは一次独立である.
標準基底(Standard basis)と次元(dimention)
次の \( N \) 個のベクトルによって与えられる \( \mathbb{R}^{N} \) を考える.
\[ \mathbf{e}_1 \,\colon= (1,0,\ldots,0),\mathbf{e}_2 \,\colon= (0,1,\ldots,0),\ldots,\mathbf{e}_{N} \,\colon= (0,0,\ldots,1). \]
集合 \( \{ \mathbf{e}_1, \mathbf{e}_2, \ldots, \mathbf{e}_N \} \) は \( \mathbb{R}^N \) の基底である.
また,これらのベクトルの集合を標準基底(standard basis)と呼ぶ.
あるベクトル空間 \( \mathcal{V} \) の基底を構成する集合のベクトルの数を そのベクトル空間\( \mathcal{V} \) の次元といい次の記号であらわす.
\[ \mathrm{dim} (\mathcal{V}). \]
集合 \( \{ \mathbf{e}_1, \mathbf{e}_2, \ldots, \mathbf{e}_N \} \) で構成されるベクトル空間 \( \mathbb{R}^N \) の次元は
\[ \mathrm{dim} ( \mathbb{R}^{N} ) = N. \]
ベクトル空間を構成するベクトルの集合のなかで一番小さいものは要素が一つの集合 \( \{ \mathbf{0} \} \) である.なお,\( \mathrm{dim} \{ \mathbf{0} \} \,\colon= 0 \) と定義する.
ベクトル空間 \( \mathcal{V} \) の任意のベクトル \( \mathbf{a} \) は基底ベクトルの線形和として記述することができる.したがって,基底 \( \{ \mathbf{e}_1, \mathbf{e}_2, \ldots, \mathbf{e}_N \} \) に対して,ベクトル \( \mathbf{a} \) は次のような線形和としてあらわすことができる.
\begin{align} \mathbf{a} = \alpha^1\mathbf{e}_1 + \alpha^2\mathbf{e}_2 + \cdots + \alpha^{N}\mathbf{e}_{N}. \tag{1.6} \label{eq:1.6} \end{align}
スカラー \( \alpha_1, \alpha_2, \ldots , \alpha_{N} \) は,基底の集合 \( \{ \mathbf{e}_1, \mathbf{e}_2, \ldots , \mathbf{e}_{N} \} \) に対する,ベクトル \( \mathbf{a} \) の成分と呼ばれる.
基底 \( \{ \mathbf{e}_1 , \mathbf{e}_{2} , \ldots, \mathbf{e}_{N} \} \) に対する,ベクトル \( \mathbf{a} \) の成分を \( \alpha_1, \alpha_2, \ldots , \alpha_{N} \) とする.このとき,\( N \)-タプル \( (\alpha_1, \alpha_2, \ldots , \alpha_{N} ) \) は一意である.
[証明]
ベクトル\( \mathbf{a} \) をあらわす別の成分 \( \beta_1, \beta_2, \ldots, \beta_{N} \) が存在すると仮定する.すると次の式が成り立つ.
\begin{align} \mathbf{a} = \sum_{k=1}^{N} \alpha^{k}\mathbf{e}_k = \sum_{k=1}^{N}\beta^{k}\mathbf{e}_k, \quad \alpha^{k}-\beta^{k} \not\equiv 0.\end{align}
上記のベクトル方程式より
\begin{align} \sum_{k=1}^{N} ( \alpha^{k} – \beta^{k} ) \mathbf{e}_k = \mathbf{0}. \end{align}
基底の線形独立性によって,われわれは以下の式を得る.
\[ \alpha^{k} – \beta^{k} \equiv 0. \]
これは仮定と矛盾.よって定理が成り立つ.[証明終わり]
Einsteinの縮約(Einstein summation convention)
アインシュタインの縮約(総和記号)についていくつかの例を示す.添え字の範囲は状況によって判断する.この記事の中ではほとんどの場合 \( \{1,\ldots,N\} \) の範囲となる.
- \( u^{k}v_{k} \,\colon = \displaystyle{\sum_{k=1}^{N} u^{k}v_{k}} \)
- \( u^{j}v_{j} \,\colon = \displaystyle{\sum_{j=1}^{N} u^{j}v_{j}} \)
- \( \lambda^{i}_{j}\mathbf{e}_{i} \,\colon = \displaystyle{\sum_{i=1}^{N}\lambda^{i}_{j}\mathbf{e}_{i}} \)
- \( \alpha^{i}_{j}\beta^{j}_{k} \,\colon = \displaystyle{\sum_{j=1}^{N} \alpha^{i}_{j}\beta^{j}_{k} } \)
添え字は仮の変数なので誤解のない範囲で他の文字に置き換えてよい.
- \( u^{k}v_{k} = u^{j}v_{j} \)
- \( u^{k}v_{k} u^{j}v_{j} = (u^{k}v_{k})^2 = (u^{j}v_{j})^2 \)
- \( u^{k}v_{k}u^{k}v_{k} \neq u^{k}v_{k}u^{j}v_{j} \)
Kroneckerのデルタ(Kronecker delta)
クロネッカーのデルタは以下のように定義される.\begin{eqnarray} \delta^{i}_{j} = \begin{cases} 1 & ( i = j ) \\ 0 & ( i \neq j ) \end{cases} \tag{1.7} \label{eq:1.7} \end{eqnarray}
体 \( \mathcal{F} \) における \( N \times N \) の行列であって各要素が \( \delta^{i}_{j} \) であるものは単位行列(unit matrix)である.いいかえると,\( [ \delta^{i}_{j} ] = [\mathrm{I} ] \) である.以下クロネッカーのデルタを含む計算の例. \begin{align} \delta^{1}_{j}\alpha^{j} & = \delta^{1}_{1}\alpha^{1}+\cdots+\delta^{1}_{N}\alpha^{1} = \alpha^{1}, \\ \delta^{i}_{j}\alpha^{j} & = \alpha^{i}, \\ \delta^{i}_{j}\delta^{j}_{k} & = \delta^{i}_{k}, \\ \delta^{i}_{j}\delta^{j}_{k}\delta^{k}_{i} & = \delta^{i}_{i} \left ( = \displaystyle{\sum_{i=1}^{N}\delta^{i}_{i}} \right ) = \delta^{1}_{1}+\cdots+\delta^{N}_{N} = 1+\cdots+1 = N = \text{dim}(\mathcal{V}). \end{align}
基底変換
基底変換について説明する(なおこれはベクトルを変換する話ではない).これは静的な変換である.\( \{ \mathbf{e}_{1},\ldots,\mathbf{e}_{N}\} \) と \( \{ \mathbf{f}_{1},\ldots,\mathbf{f}_{N}\} \) を ベクトル空間 \( \mathcal{V} \) 上の二つの基底とする.展開プロパティによって,次の式を満たすようなスカラー \( \lambda_{i}^{k} \) と \( \mu_{k}^{j} \) が必ず存在する.\[ \mathbf{f}_{i} = \lambda_{i}^{k}\mathbf{e}_{k}, \ \mathbf{e}_{k} = \mu_{k}^{j}\mathbf{f}_{j}. \tag{1.8} \label{eq:1.8} \]
集合 \( \{ \mathbf{e}_1, \ldots , \mathbf{e}_{N} \} \) と集合 \( \{ \mathbf{f}_{1},\ldots,\mathbf{f}_{N}\} \) をふたつの基底とし式(1.8) が成り立っているものとする.また,\( \mathbf{a} = \alpha^{i}\mathbf{e}_{i} = \beta^{j}\mathbf{f}_{j} \)をベクトル空間 \( \mathcal{V} \) の任意のベクトルとする.このとき,次の式が成り立つ.\[ \lambda_{i}^{k}\mu_{k}^{j} = \mu_{i}^{k}\lambda_{k}^{j}=\delta_{i}^{j}; \tag{1.9} \label{eq:1.9} \] \[ \beta^{i} = \mu_{k}^{i}\alpha^{k},\quad \alpha^{i}=\lambda_{k}^{i}\beta^{k}. \tag{1.10} \label{eq:1.10} \]
[\( \eqref{eq:1.9} \)の証明] \( \eqref{eq:1.8} \) より \[ \mathbf{f}_{i} = \lambda_{i}^{k}\mathbf{e}_{k} = \lambda_{i}^{k} \left( \mu_{k}^{j}\mathbf{f}_{j} \right) = \left(\lambda_{i}^{k} \mu_{k}^{j}\right) \mathbf{f}_{j} , \] また \[ \mathbf{f}_{i} = \delta_{i}^{j}\mathbf{f}_{j}. \] したがって \[ \left( \delta_{i}^{j} – \lambda_{i}^{k}\mu_{k}^{j} \right) \mathbf{f}_{j}=\mathbf{0} \] 基底\( \{\mathbf{f}_{1},\ldots,\mathbf{f}_{N} \} \) の線形独立性から,\[ \delta_{i}^{j} – \lambda_{i}^{k}\mu_{k}^{j} \equiv 0.\] よって \( \eqref{eq:1.9} \) が成り立つ.\( \eqref{eq:1.9} \) のもう一つの式も同様に証明することができる.
[\( \eqref{eq:1.10} \)の証明]
\( \eqref{eq:1.8} \) によって以下の方程式が成り立つ. \[ \beta^{i}\mathbf{f}_{i} = \alpha^{k}\mathbf{e}_{k} = \alpha^{k}\displaystyle{\left( \mu_{k}^{i}\mathbf{f}_{i} \right)} = \mu_{k}^{i} \alpha^{k}\mathbf{f}_{i} \] 係数の一意性から \( \eqref{eq:1.10} \) の最初の等式が成立する.\( \eqref{eq:1.10} \) の二番目の等式も同様に証明できる.[証明終わり]
次の \( \mathbb{R}^4 \) のふたつの基底を考える.\[ \mathbf{e}_1 \,\colon= (1,0,0,0), \mathbf{e}_2 \,\colon= (0,1,0,0),\mathbf{e}_{3} \,\colon=(0,0,1,0),\mathbf{e}_{4} \,\colon= (0,0,0,1); \\ \mathbf{f}_1 \,\colon=(1,0,0,0),\mathbf{f}_{2} \,\colon= (1,1,0,0),\mathbf{f}_{3} \,\colon=(1,1,1,0),\mathbf{f}_{4} \,\colon=(1,1,1,1). \] \( 4 \times 4 \) の変換行列と行列式は次のようになる.
\begin{align} &[\lambda_{i}^{k}] =\begin{bmatrix}1 & 1 & 1 & 1 \\0 & 1 & 1 & 1 \\0 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{bmatrix}, \ [\mu_{k}^{j}] = \begin{bmatrix}1 & -1 & 0 & 0 \\0 & 1 & -1 & 0 \\0 & 0 & 1 & -1 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{bmatrix},\\ &\text{det}[\lambda_{i}^{k}] = \text{det} [\mu_{k}^{j}] =1. \end{align}
これらの基底は相対論でtetradsと呼ばれる.
2次元複素ベクトル空間 \( \mathbb{C}^2 \) を考える.これらに次の式によって基底ベクトルの変換規則が与えられている.\begin{align} &\mathbf{f}_{1} = (\lambda\cosh{\phi})\mathbf{e}_{1}+(\mu\sinh{\phi})\mathbf{e}_{2},\\ & \mathbf{f}_{2} = (\mu^{-1}\sinh{\phi})\mathbf{e}_{1}+(\lambda^{-1}\cosh{\phi})\mathbf{e}_{2}, \\ & \lambda\mu \neq 0, \\ & \text{det} [\lambda_{i}^{k}] = \text{det} [\mu_{k}^{j}] = 1. \end{align} これらの基底は相対論でspinor dyadsと呼ばれる.
練習問題
複素ベクトル \( (\alpha^{1},\alpha^{2}) \) と \( (\beta^{1},\beta^{2}) \) は \( \alpha^{1}\beta^{2} – \alpha^{2}\beta^{1} = 0 \) の場合のみ線形独立であことを証明せよ.
ベクトル空間 \( \mathbb{R}^{4} \) において,部分空間 \( \mathcal{U} \) は \( (-1,1,-2,3) \) と \( (-1,-1,-2,0) \) によって構成され,部分空間 \( \mathcal{W} \) は \( (0,2,0,3) \) と \( (1,0,1,0) \) と \( (1,-1/3,2,-2) \) によって構成される場合,部分空間 \( \mathcal{U} \cap \mathcal{W} \) の次元を求めよ.
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